2010年9月に,JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」が 沖縄トラフの水深1,060mの熱水活動域を掘削しました.
今回我々の研究チームは,掘削開始前から掘削40ヶ月後にかけて 深海底の生態系モニタリングを実施し, 熱水活動に依存する生物群集(熱水噴出孔生物群集)が生息域の変動によって受ける影響の観察に成功しました.
掘削前,海底は堆積物に覆われ,熱水噴出は見られず, 二枚貝シマイシロウリガイ(多くは死貝)が優占していました.
掘削地点C0014の中心から西へ20-40mほど行くと海底は岩盤となり, そこでは岩盤の割れ目から熱水の湧出が見られます.
熱水活動域特有の底生生物であるゴエモンコシオリエビや シンカイヒバリガイの生息が確認されました.
掘削地点C0014では,合計7つの孔が掘られましたが, そのうち一つは海底下134mまで到達.
海底下の熱水溜まりまで貫通しました (Kawagucci et al. 2013).
この掘削の11ヶ月後,掘削孔周辺の海底表面から熱水の湧出が始まりました.
海底の温度は海底に設置していたセディメントトラップの先端が溶けていました.
材質から考えて,海底は少なくとも摂氏200度近くになっていことが分かりました.
なお設置していた温度計は摂氏50度以上に上昇したところで壊れました… (Kawagucci et al. 2013)
海底の物理化学環境は大きく変化して掘削の25ヶ月後から海底の堆積物は固くなり, 38-40ヶ月後には金属製の温度センサーを差し込めない堅さになりました(映像の後半).
この現象は熱水成分に由来する反応と考えられます.
掘削によりシマイシロウリガイは完全に埋没しました.
海底表面から熱水が湧出し温度が上昇を始めて以降, 海底は白色あるいはピンク色のバクテリアマットに覆われました.
また多数のゴエモンコシオリエビが移り住んできました.
掘削から16ヶ月後には、ゴエモンコシオリエビが1平方メートルに最大で43匹、 25ヶ月後には最大110匹が分布していました.
この熱水生態系に移り住んだのはゴエモンコシオリエビだけでなく, オハラエビ類やエゾイバラガニ類,イトエラゴカイ類の仲間も見られました.
ゴエモンコシオリエビの体長を掘削の16ヶ月後と40ヶ月後で比較したところ, 16ヶ月後の個体のほうが大きく,また小さな個体が生息していいませんでした.
そのためゴエモンコシオリエビは人工熱水噴出孔周辺以外の生息地から, 新たに湧出する熱水の存在を感知して, 「歩いて」この人工熱水噴出孔周辺に移動してきたと考えられます.
JAMSTECプレスリリース Nakajima R, Yamamoto H, Kawagucci S, Takaya Y, Nozaki T, Chen C, Fujikura K, Miwa T, Takai K (2015) Post-drilling change in seabed landscape and megabenthos in a deep-sea hydrothermal system, the Iheya North field, Okinawa Trough. PLoS ONE 10: e0123095.