深海探査システムの映像から海底面積を推定してみる

国立研究開発法人海洋研究開発機構海洋(JAMSTEC)では1980年頃から, 潜水船や無人探査機(ひっくるめて深海調査システムと言います)によって さまざまな深海の映像が撮影され記録されています.

これらの映像データは, すべて沖縄県にある国際海洋環境情報センター(GODAC)に保管され, 映像データベースから誰でも見ることが出来ます.

この映像データから,底生生物の個体数や生物量を調べて, 生物群集の長期変動や地震などのイベント前後の比較などが可能になると期待されます.

しかし,JAMSTECの映像データの多くは「斜め前向き映像」のため, 海底の面積を推定するのは容易ではありません.

今回,新たに斜め映像から面積を推定する方法を考案することになりました.

深海で画像から生物の個体数(例えば,1m^2 あたりのある生物の数)を調べるには, ふつう下向きカメラで海底を撮影します.

下向き映像に映っているコドラート(面積があらかじめ分かっている四角い枠です) の中を数えるか,または画像いっぱいに写っている生き物を数えます.

上の写真はJAMSTECの無人探査機バードルフィンに下向きハイビジョンカメラを 取り付けた状態です(真ん中の銀色の筒) 下向きの画像に写っている海底の面積は以下のように計算されます.

面積=4(a)^2 × tan(α÷2)× tan(β÷2)、aは高度でカメラレンズから海底までの距離,αとβは,それぞれカメラの垂直画角と水平画角.

しかし,これまでにJAMSTECの深海調査システムで得られる映像の多くは 斜め映像です.たとえばこのような...

JAMSTECに蓄積されている映像データの大部分はこのような斜め前向きの映像

この場合,海底に映し出される海底は台形で, 奥に行くほど面積は広くなります.

カメラのチルト角(縦の角度)が水平に近づくほど, 映し出される映像の奥行きは無限大に(=面積も無限大に)...

しかも画面の奥は光が届かず生物の認識は困難で,そもそも小さくて見分けられない.

そこでこの際,画面の上半分は無視することにして, 画面の下半分の面積を計算することにしました.

基本は台形の面積の計算です.(上辺+下辺)×高さ÷2.

それで上辺と下辺と高さに相当する部分をあの手この手で計算していきます.

カメラのレンズの情報やビークル(無人探査機などの深海調査システム)の高度, カメラの角度などを入力していきます.(詳しくは論文を見てください)

この計算方法で求めた面積を,実際にしんかい6500ハイパードルフィンの映像に 映し出される面積の実測値と比較したら,ほぼ同等の値が得られたため これでとりあえず推定できるようになりました.

というわけで,これまでにJAMSTECで運用されてきた (ほぼ全部の)深海調査システムのカメラ(レンズ)の情報などを調べ回って, 過去の映像から面積が推定できるようにしました.

しんかい6500が整備場にいるときに親切に協力してくださった 6Kチームのみなさん,ハイパードルフィンが船上にいるときに協力してくださった ハイパーチームのみなさんに感謝です.

Nakajima R, Komuku T, Yamakita T, Lindsay DJ, Jintsu-Uchifune Y, Watanabe H, Tanaka K, Shirayama Y, Yamamoto H, K Fujikura (2014) A new method for estimating the area of the seafloor from oblique image taken by deep-sea submersible survey platforms. JAMSTEC Report of Research and Development, 19: 59-66.