サンゴ礁の海面表層ミクロ層

サンゴ礁の水中風景

海面表層ミクロ層をご存知でしょうか?

英語でSea-Surface Microlayer(SML)といいます.

海面表層ミクロ層は,海の最も表面にある非常に薄い層のことで, だいたい厚みが数μmから数百μmの薄い膜です.

海面表層ミクロ層は,高分子とコロイドが複雑に入り交じった 粘性の少ないゲルのようなもので,基本的に,下の水に比べて 溶存有機物(DOM)や粒状有機物(POM)に富んでいます.

そのため下の水と比べて物理化学的に異なる性質を持ちます. 海と大気の間にあるこの薄い膜を通して,様々なガスの交換が行われます.

なかには気候に影響するようなガスも含んでいますが, 海面表層ミクロ層の有機物の組成によっては, このミクロ層を通るガスの交換を遅らせたりするため, 気候の変動に影響を与えるとされています.

海面表層ミクロ層は,下の水よりもずっと多くの微生物 (バクテリアや植物プランクトン)がいることが報告されています.

海面表層ミクロ層で微生物が多い理由は, 下の層からの集積や海面に多い有機物を利用して増殖するなどです. 海中の泡の表面に微生物がトラップされるとこれが海面に浮上して, 海面ではじけて海面に集積する場合もあります.

この微生物群集もまた海と大気の間のガス交換を制御することがあります.

そのためミクロ層の微生物群集の時空間変動について最近関心が高まっています.

海面表層ミクロ層の採集風景.このようなメッシュをつかって海面100 μm程度の厚みの水を採水する.2リットル集めるのに30分弱かかる.

サンゴ礁において,サンゴは主要な有機物の放出者です. 共生藻が作り出した有機物の約半分は体の外に粘液として放出することが 知られています.

今回,私はサンゴ礁ではじめて 海面表層ミクロ層における微生物を調べてみました. サンゴ礁では,粘液が日中に絶えず放出され, そのネバネバで水中の様々な粒子をキャッチして,さらに空気を含んでいるので, これが水面に上昇します.

そして海面に集積するため, 海面表層ミクロ層の有機物濃度が高くなっていました. サンゴ礁では他のどの海洋の生態系よりも,海面表層ミクロ層において卓越した 微生物群集が存在していました.

特に注目されるのが細菌とそれを捕食する鞭毛虫の数でした. さらにサンゴの被度が高いところ(サンゴのバイオマスが高いところ)では, より多くの有機物が生産されるので, その場所の海面表層ミクロ層ではサンゴが少ない場所よりも 卓越した微生物群集が存在していることが分かりました.

すなわちサンゴの有機物(=サンゴ粘液)が多いほど, 細菌がネバネバにキャッチされて海面に多量の細菌が輸送され, これを食らう鞭毛虫の密度も高くなっていることが分かりました.

Nakajima R, Tsuchiya K, Nakatomi N, Yoshida T, Tada Y, Konno F, Toda T, Kuwahara VS, Hamasaki K, Othman BHR, Segaran TC, Effendy AWM (2013) Enrichment of microbial abundance in the sea-surface microlayer over a coral reef: implications for biogeochemical cycles in reef ecosystems. Marine Ecology Progress Series 490: 11-22.